映画「凶悪」を観た

 

凶悪 [Blu-ray]

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 俳優陣の名演技と,脚本のえぐさが目立つ.綺麗事に待ったをかけ,その裏に潜む醜さを暴き出すかのような強いメッセージ性があった.

登場人物のピエール瀧リリー・フランキーは老人を保険金殺害したり,殺して土地を奪ったりする「凶悪」な二人.劇中で「親から受け継いだ土地にあぐらをかいて借金まみれになる,そんなどうしようもない老人を殺しただけで金が手に入る,今の時代は僕らにとってバブルだよ」と言ってのけるような最低の人間である.

劇中でこの二人とその子分たちだけが,「悪」であるかというとそうではない.電気屋の家族は借金を返済するために,父親をヤクザに引き渡し保険金殺害を依頼する.彼らは直接手を下さないにしても明確に殺害に関与している.彼らは善か悪かと言えばおそらく悪だろう.ただ,借金を返せなくては彼らも生きていけない事情があったことを考えると社会の不条理さを感じる.

実は,生活を犠牲にして事件を追うほどの正義感を持った主人公,山田孝之にもこの類の「悪」が垣間見える.彼の悪は事件を追うことに没頭して家庭を顧みなかったことであり,言い換えれば無関与の悪である.彼は妻と認知症の母親と3人ぐらしをしており,仕事が忙しい彼は母親の介護を妻に丸投げしていた.意思の疎通ができない母親の介護につかれた妻は度々SOSの声をあげていたが,事件の捜査に没頭していた山田孝之は,社会正義の為にやっているんだと声を荒らげ,そのSOSを度々忙殺した.事件の捜査が終わった後初めて,介護につかれた妻が母親に対して日常的に暴力をふるうようになったことを知る.山田孝之の場合は無自覚のまま母親に対し暴力をふるう環境を作り,また妻をその加害者に陥れてしまった.社会正義の為に行動した結果,家庭が不幸になってしまった事になる.

劇中では「凶悪」な二人に目が行きがちだが,誰しもその悪を秘めており,また無自覚なうちに加害者になっているのかもしれない,ということを考えさせられる.

その最たる例というのが高齢者の介護問題だろう.何が正解かもわからない,泥沼さをこの問題には感じる.